インプラント治療は、人工歯根を顎の骨に埋め込む治療です。
すなわち外科処置の一種です。糖尿病になると、細菌感染に弱くなったり、傷の治りが悪くなったりすることが知られています。コントロール不良の糖尿病の場合は、インプラント治療が受けられないかもしれません。糖尿病についてまとめてみました。
糖尿病とは
糖尿病の問題点
創傷治癒遅延
創傷治癒遅延とは、手術を受けた後やケガをしたときなどに生じる傷の治りが悪くなることです。これは、糖尿病になりインスリンの産生量の不足や機能不全を起こすことで、細胞が必要とするだけの栄養や酸素を受け取ることが出来なくなるからです。細胞の栄養・酸素不足が生じることで、傷を治す能力が低下してしまう結果です。
易感染性
易感染性とは、細菌感染を起こしやすくなる状態のことです。皮膚や粘膜がしっかりしていると細菌やウィルスが入り込むことはまずありません。しかし、ケガや手術、虫さされなど、皮膚や粘膜に穴があいてしまうと、そこから細菌やウィルスが体内に入り込もうとします。そのときに防いでくれるのが白血球などの免疫細胞です。
ところが免疫細胞も、しっかり活動するためには栄養や酸素が必要です。これらが糖尿病のために不足してしまい、免疫細胞が十分に活動することが出来なくなります。その結果、細菌などの病原微生物を防ぐことが出来なくなり、感染が生じやすくなります。
神経障害
神経には、感覚を司る知覚神経と身体を動かす運動神経、そして身体の状態を制御する自律神経もあります。糖尿病になるとこれらの神経にも悪影響が現れます。知覚神経が障害されると、感覚が鈍くなります。この傾向は足において顕著に認められます。足に傷が出来ても気がつきにくくなり、前述の創傷治癒遅延と相まって足が壊死してしまう原因のひとつになります。運動神経も障害されると、筋肉の動きが悪くなり身体を動かすのが難しくなってしまいます。
インプラント治療時の注意点
術前の状態
このような外科処置を行なう場合は、HbA1cが7.0未満であることを目安とします。また、空腹時の血糖時が180[mg/dl]以上なら、外科処置は中止となります。なお、低血糖による発作を防ぐためには、食前にインプラント治療をしないほうがいいでしょう。
治療時の注意点
細菌感染に対して弱くなっているので、インプラント治療前に抗菌薬の術前投与をします。体内にあらかじめ抗菌薬を含ませておくことで、細菌が感染しにくい環境を整えます。また、出血しやすい傾向もあるので、必要に応じて止血薬の投与や注射も行ないます。局所麻酔薬に含まれるエピネフリンは高血糖を誘発する可能性があるので、配合されていない局所麻酔薬がいいでしょう。
治療後の注意点
糖尿病になると、インプラント治療後の傷の治りが悪くなる傾向があります。創傷治癒遅延は、そこから細菌感染を生じたり、インプラントが抜けてしまったりする原因になります。いたずらに長期間抗菌薬を投与しても、創傷治癒の悪さからくる細菌感染は予防できません。かえって、抗菌薬が効かなくなる耐性菌の発生を促すだけです。治療前にしっかりと糖尿病をコントロールしておくにこしたことはありません。
低血糖発作
インプラント治療時に、眠気やダルさ、動悸、冷汗、けいれんなどを起こすことがあれば、低血糖発作を起こしている可能性が考えられます。こうした低血糖発作は、放置すると昏睡状態に至ることもあるので注意が必要です。実は、この低血糖性昏睡は糖尿病の偶発症のなかでも生命の危機を招来しかねない危険な状態です。
もし、前述した様な症状が現れた場合は、低血糖性昏睡を起こす前の段階の症状ととらえなければなりません。このとき、砂糖やジュースなどを摂取させることが、昏睡状態を予防するために有効です。もしも口から飲むことが出来ない状態に至れば、ブドウ糖の点滴をします。
ただし、昏睡状態に至る前に何らの症状が現れなかったり、もしくは現れても極短時間で昏睡状態に陥ったりすることもあります。なお、昏睡状態が後述する高血糖発作によるものであったとしても、これらの低血糖発作時の処置が、症状を増悪させることはありません。
高血糖発作
高血糖発作は、血糖コントロールが不良の時に、ストレスや手術などをうけることでおこり、昏睡状態に至ることもあります。ただし、低血糖発作時の昏睡状態よりも徐々に発症するため、低血糖性昏睡ほどの緊急性はありません。
インプラント治療前に、血糖値を測定しておき、血糖値が高いときは治療を行なわない様にすることで、高血糖発作時を予防します。高血糖発作を起こした場合は、インスリンの注射や生理食塩水の大量投与で対応します。そして、専門病院に搬送します。
まとめ
インプラント治療は、外科手術のひとつなので、こうした糖尿病のリスクは無視出来ません。糖尿病のコントロール状態が良くなければ、インプラント治療を受けることが出来なくなることもあります。糖尿病になっているのなら、主治医の指示に従って、糖尿病を良好な状態にコントロールする様にしましょう。