インプラント治療はここ数年のあいだに急速に普及し、現在では珍しくない治療となっています。
しかしインプラントがまだなかった時代、歯を失った人たちはどういった治療をしていたのでしょうか。ちなみにインプラント治療が登場したのは1910年ごろ。
それより前はインプラント以外の方法で治療が行われ続けていたことになります。よって今回はインプラント治療が登場する以前に歯を失った人たちはどういった治療をしていたのかを調べてみたいと思います。また、それに併せてこれまでのインプラント治療の歴史も振り返っていきたいと思います。
インプラント治療がなかった時代の歯の治療
そうなると、海外でも「ブリッジ」や「入れ歯」により食事をしていたことが考えられます。しかしその技術や方法については、日本と海外とでは大きな違いがあったようです。ここではインプラントを導入する前の日本と海外の「入れ歯」や「ブリッジ」の歴史を振り返ってみたいと思います。
日本の場合
まず日本の場合、意外なことに非常に早い段階で現在使われている「入れ歯」にとても近いものが使われていたことがわかりました。しかもその時代は、まさかの平安時代と言われています。それは日本最古の「入れ歯」とされており、1538年に亡くなった尼僧が使っていたものとされています。その材料は黄楊(つげ)と呼ばれる木を使用しており、色は今のものと違い、ほぼ真っ黒の状態でした。
しかしその形状は現在の総入れ歯と比べても遜色がないと言って良いほど、しっかりと顎の形に合わせて作られており、歯の形も見事に再現されていました。また咬合面(歯を噛み合わせる面)もある程度磨り減っていたことから、その「入れ歯」で実際に食事も摂れていたことがわかりました。
このことから日本人は西洋医学が導入される前から、すでに「入れ歯」の作り方を心得ていただけでなく、それを作ることができる技術も持ち合わせていたことがわかります。その後、時代の流れとともに「入れ歯」は広く普及していっただけでなく、総入れ歯のほかに部分入れ歯も作られるようになり、その汎用性も広がっていきました。
その際に入れ歯を作る専門職である「入れ歯師」という職業が誕生し、これは口の中を治療する「口中医」とはまた別の職業として区別されました。使用する材料も少しずつ種類を増やしていき、「入れ歯」を使い続けるとどうしても問題となってくる口臭に対しても江戸時代では独自に工夫を凝らして対策を行っていました。
このことから「入れ歯」は、遠い昔から日本人にとって非常に馴染み深いものであったことがおわかりいただけると思います。ちなみに「ブリッジ」のように歯を失った部分に偽物の歯を継ぎ足す方法は、日本よりも海外で先に行われていることがわかりました。またその方法も日本と比べると明らかに一線を画すものでした。
海外の場合
海外では、日本よりもさらに早い段階で歯を失ったあとのことを問題視していたようでした。またその対策についても、歯を失ったあとのことではなく歯を失う前に行うものとして考えられていたようです。
実際、紀元前5世紀頃のものと思われる墓からは、金属のプレートを使い数本の健康な前歯のあいだに偽物の歯を入れてつないだ「ブリッジ」のようなものが発見されています。これは歯周病によって抜けそうになっていた前歯をつないで抜けないように固定していたものと考えられます。
つまり海外では、ずいぶん昔から「歯を失うことはみっともないことである」と考えられていたのです。また「入れ歯」については、具体的にいつの時代から「入れ歯」を作ることが考えられ始めたのかは具体的な記録が残っておりません。
しかし17世紀から18世紀にかけてヨーロッパで使われていた「入れ歯」は、金属のフレームをメインパーツとし、バネの力で「入れ歯」を支えていたことがわかっています。
しかしその構造は日本の「入れ歯」と比べると面積が小さく安定性に欠き、食事を摂ることには向いていませんでした。
しかも昔はまだ「入れ歯」を安定させる吸着剤はありませんでした。ところが日本では、もう早い段階で「入れ歯」は顎の形に合わせて作ることである程度吸着することに気づき、落ちずに使いやすい「入れ歯」を作ることができていました。ヨーロッパやアメリカではそういったシンプルなことに気づくまで300年近く遅れを取ってしまい、しかもその仕組みに気づいたきっかけも偶然のことだったそうです。このことから海外では「入れ歯」や「ブリッジ」に対する考え方を、実用性よりも見た目を重視したものであったということが窺い知れます。
インプラント治療の歴史
一説では古代ローマ時代からすでにインプラント治療は行われはじめていたと言います。そのほか、インカ帝国の遺跡からインプラント治療と思われる治療の痕跡があるミイラが発見されたり、インプラント治療と類似した治療の記録が各地で発見されていたりしています。
このように正式な医療記録ではないものの、インプラント治療を試みた歴史は数多く存在するのです。そして初めてインプラント治療が実施され、その後もさまざまな試行錯誤を繰り返したインプラントは、現在のスタイルに辿りつきました。
それまではインプラントが噛む力に耐えられなかったり、歯の骨が失われてインプラントを摘出しなくてはいけなくなったり、非常に多くのトラブルが発生しました。まだインプラントが導入されたばかりだった日本では、ブレードタイプのインプラントやサファイアインプラントが多く使われ、これらもトラブルの連続でした。
それにより日本におけるインプラント治療は「危険な治療」というマイナスイメージが根付いてしまったのです。しかし現在のインプラントになるとほとんど失敗するケースはなくなり、治療を受けた方はほぼ全員が何事もなくインプラントを使うことができています。
このことからいかに現在のインプラントが安全性の高いものであるかが窺い知ることができるのです。しかし、その安全性の高いインプラントも扱い方を間違えてしまうと何らかのトラブルが起きてしまいます。そのためどんなに質がよく成功率の高いインプラントでも、それを正しく扱う医師の存在も不可欠なのです。
まとめ
しかもその研究はまだまだ終わっておらず、今よりもさらにトラブルが少なく安全性の高いインプラントの追求は続いているのです。現在のインプラント治療でも十分であると思われる方もいるかもしれませんが、今後のインプラントの進化にもぜひ注目していただきたいと思います。